電撃小説大賞金賞の小説家が追い求めるモノとは…? 甘酸っぱい“原風景”を描く作者の秘密

 

日刊ビビビをご覧の皆様、はじめまして。

主にライトノベルというジャンルで作家活動をしています葉月文と申します。御縁があり、こうしてコラムを書かせていただくことになりました。

どうぞ、よろしくお願いします。

ここでは創作における裏話なんかを、並んで歩くようなペースで、ゆっくりお話しさせていただこうかと思います。学校帰りに、友達と好きな漫画やハマっている音楽の話をしていた、あの無為で、けれどたまらなく愛しい時間のことを思い出したりなんかしながらお付き合いしていただけると幸いです。

第一回である今回は、葉月文という作家について自己紹介をさせてください。

わたしは第24回の電撃小説大賞の金賞を受賞し、作家デビューをさせていただきました。それから4年、現在、8冊ほどの小説を電撃文庫様より発表させていただいております。

214回の出会いと、一度きりの別れを描いたデビュー作『Hello,Hello and Hello』

(C)葉月文

一年に一度、願いを叶えてくれるという不思議な言い伝えのある町で繰り広げられる“僕”と“彼女たち”の“試練”と“奇跡”の物語『あの日、神様に願ったことは』

(C)葉月文

崖っぷち作家と世話焼き女子高生の何でもない、けれど特別な日々『ホヅミ先生と茉莉くんと。』

(C)葉月文

シリーズ3作、合計8冊が好評発売中ですので、良ければ。

さて、皆様は今、何をしながらこのコラムを読んでいらっしゃるのでしょうか。

通勤通学の電車に揺られながら?
昼休みの喧騒を聞きつつ?
あるいは、ベッドの上で微睡んでいるのでしょうか?

わたしは、今、顔も名前も知らない“あなた”のことを想って、このコラムを書いています。

コラムだけではありませんね。小説を書く時も同じです。

春の日に舞う桜の花。夕焼けに濡れたアスファルトを走っていく影。夏の吸い込まれそうなほど青い空と、大気に溶ける吹奏楽部の演奏。昼休み明けの気だるさが顕現する欠伸。カラカラと笑うように地面を転がる真っ赤な落ち葉。わたしの名前を彩る友の声。吐いた息の白さに一年の終わりを感じる冬の朝。大切な人の体温。初めての恋人がよく付けていた香水の匂い。片思いの苦しさ。ファーストキスの時の、頭が真っ白になって、やたらと跳ねる心臓の歌声。初恋の夢を見て、喪失感に胸を痛める目覚め。射し込んだ朝日の眩しさに目を細め、頬を流れる涙の熱さ。

好き、と想いを告げた途端に口いっぱいに広がる甘酸っぱさ。

泣いて、怒って、笑って。
そういった、誰もが持っている在り来たりで、でも特別な原風景。

優しくて、温かくて、ちょっと寂しい記憶のカケラ。

もう手の中には残っていないと思っていたのに、見えないのに、それでもまだわたしの手の中にも、あなたの手の中にもきっと残っているはずの“なにか”。

葉月文の作品は、その“なにか”を追い求める彼らの物語です。

その彼らはいつかの“わたし”であり、同時にいつかの“あなた”なのかもしれません。そのいつかの“わたし”や“あなた”を引き連れて、物語が今日の“あなた”の笑顔を作れますように。豊かな日々の、微かな糧となりますように。

まだサンタの存在を信じている子供がクリスマスの夜に毛布にくるまりつつ抱くような甘い奇跡を祈りながら、わたしは今日も明日も物語を編んでいます。

では、今回はこの辺で。
また、次回の更新でお会いしましょう。

おまけ
葉月文が2022年1月に読んだ小説の中でおススメしたい一冊。
松村涼哉先生著『犯人は僕だけが知っている』

(C)葉月文

松村先生の作品はデビュー作からずっと追いかけているのですが、この一冊は個人的に一番のお気に入り。それは作品のテーマが、今、わたしが感じている世界の空気を、その窮屈さや息苦しさを表していたからかもしれません。

現在、世界は緩やかに死んでいっています。金銭的にも、精神的にも、人は貧しくなるばかり。終わりのない撤退戦のよう。故にそれを打開することは難しく、豊かな人を妬み、弱者と分かれば石を投げる人を見かけます。そんなことでは、一時的に溜飲を下げてもなんの解決にもならないのに。けれど、ほんのひと時、痛みを忘れがたいが為にやっぱり誰かに石を投げる人がいる。わたしたちは、これからどうやってそんな悪意から身を守ればいいのか。

もう一度、深く向き合わなくてはいけないな、と思わされた一冊でした。

 

(C)葉月文

葉月文(はづき あや)

大分県出身、8月23日生まれ。
ペンネームは誕生日から。八月の文と書いて“はづきあや”。大好きな人たちと物語に囲まれていれば、案外と幸せ。最近は、サウナに夢中。夜通し仕事をした後の朝に入るサウナほど、至福の時間はないと思っています。
Twitter:@myfragment

【作品】
・Hello,Hello and Hello
・あの日、神様に願ったことは
・ホヅミ先生と茉莉くんと。