『紅の豚』は機内上映用の短編映画だった! 長編になった理由とは?
■『紅の豚』は劇場公開の予定ではなかった
『紅の豚』はもともと短編映画
宮崎駿氏が原作・脚本・監督を務めた『紅の豚』は、スタジオジブリの名作アニメのひとつです。主人公のポルコ・ロッソが“飛行機乗りの豚”というまさかの設定に度肝を抜かれた方も多いはず。そんな『紅の豚』は当初、JAL機内でのみ上映される15~45分ほどの短編映画の予定でした。

「スタジオジブリ」公式サイトより
そもそも『紅の豚』の制作は、宮崎氏が鈴木敏夫プロデューサーに短編製作を持ちかけたことから始まりました。1986年に『天空の城ラピュタ』公開、さらに1988~1989年には『となりのトトロ』と『魔女の宅急便』を連続で発表していた宮崎氏。立て続けに長編制作はさすがに荷が重かったのでしょう。短編で、しかも自分の好きな飛行機をモチーフとした映画ならと軽い気持ちで企画を作ります。
しかし、主人公が豚という驚きの脚本に鈴木氏は「なぜ豚なのか? その理由もストーリーに入れてほしい」と依頼します。宮崎氏は周囲のスタッフに「なんで豚になったと思う?」と問いかけたそう。「自分で魔法をかけたのでは?」と返答すると、その“答え”をそのままポルコが豚になった理由にしてしまいました。
作中ではポルコの過去を知るジーナが登場しますが、原作には存在しないキャラクターです。『紅の豚』の原作は、宮崎氏が『月刊モデルグラフィックス』で不定期連載していた『宮崎駿の雑想ノート』がベース。映画ではポルコが豚になった理由などを組み込んだことで、『紅の豚』は結局約93分の長編映画になってしまいました。
『紅の豚』制作時に起きた“書き置き事件”とは?
『紅の豚』制作時のこぼれ話として、“書き置き事件”というものがあります。ちょうど『紅の豚』の制作が始まるころ、スタジオジブリでは高畑勲氏の『おもひでぽろぽろ』の制作進行が遅れていました。やむなく宮崎氏は『紅の豚』の制作準備室を一人で立ち上げます。そのとき、鈴木氏の机に「紅の豚、俺ひとりでやれというのか」という書き置きを置いたというエピソードが。鈴木氏も忙しかったため、書き置きは無視したそうです。
『紅の豚』の中で、故障したポルコの愛機・サボイアをピッコロ社の一族が総出で修理するシーンがあります。しかも修理しているのは全員女性。実は『紅の豚』の作画監督や美術監督、録音演出の責任者は全て女性なんです。制作が押していた『おもひでぽろぽろ』の作画監督である近藤喜文さんと、美術監督の男鹿和雄さんは疲労困ぱい。続けて『紅の豚』の制作を進めるのは難しかったようです。そんな窮地に宮崎氏は、「重要なポストは女性で固めよう」と提案。ちなみに当時のアニメ制作で女性ばかりのスタッフというのは異例のことです。飛行艇を修理する生き生きとした女性たちは、スタジオジブリで働く女性たちが投影されていたんですね。
(文=ザ・山下グレート)