『北斗の拳』ケンシロウの傷は後付け設定だった!? 原作者・武論尊の考え方とは?

■『北斗の拳』のケンシロウの傷の設定は後付け!?

ケンシロウの胸の傷はファッション?

1980年代に一世を風靡した名作漫画『北斗の拳』。原作者は武論尊氏、作画は原哲夫氏で、今でも根強い人気のある作品です。

『北斗の拳』公式ウェブサイトより

主人公のケンシロウのトレードマークというと、胸にある7つの傷。この傷について原作者の武論尊氏はオフィシャルサイトのインタビューで「完全なファッション。入れ墨やトレードマークみたいなもので。カッコイイから入れてくれって原作に書いてね」と語っています。当初、傷は特に意味が無かったようですね。

ところが原作でこの傷は、ケンシロウの恋人・ユリアを奪おうとライバルであるシンが付けた傷という設定。これは一体どういうことなのでしょうか?

武論尊氏によると、“第1話では近代兵器の無い世界での拳法の凄さや無残さを表現してインパクトを残すことができた”と語っています。そしてその後の第2話を制作するに当たってどうするべきか。そもそもなぜケンシロウは旅してるのか、その理由は? という壁にぶち当たったとか。

そこで生まれたのが、“ユリアを奪うためにシンがケンシロウの胸に傷をつける”と“奪われたユリアを探す旅に出る”という設定なのです。その設定により物語の流れが生まれ、その後のストーリー展開にいっそう拍車がかかりました。

もともとは読み切りだった!!

『北斗の拳』は、もともと1983年『フレッシュジャンプ』誌上で2作読み切り版があったそう。原作依頼を受けた武論尊氏は読み切り版を読み、「あんたもう死んでるよ」というフレーズに触発されたとか。‟見た目では生きているが、身体は死に向かっている”という特殊な状態が北斗神拳の神秘性を高め、武論尊氏の原作意欲をかき立てることとなったというのです。

また原氏の描く線1本1本の繊細なタッチや大掛かりな描写は素晴らしく、圧倒的な画力は言うまでもありません。武論尊氏は原氏の絵をみて気に入った上で、自分がストーリーをしっかり生かしていけば彼の絵はもっと可能性が広がっていくだろうと思ったと話しています。

そんな原氏の可能性の広がりの1例として“断末魔”があげられるのではないでしょうか。「あべし」「ひでぶ」の阿鼻叫喚は、今や北斗の拳の代名詞。なかでもケンシロウがジャギの手下の頭にのこぎりを入れてザクザク引いたときの「ぱっびぶっぺっぽおっ!」はもはや芸術の域に達したといわれています。

後付け設定が多いと言われている『北斗の拳』。その理由は武論尊氏の面白いものを作りたいという創作意欲、つまり原氏の描く絵を含む作品への愛の表れなのかもしれませんね。

(文=ザ・山下グレート)