音楽を作るのに欠かせない職人「仮歌シンガー」のお仕事とは?/連載 防音室の仮歌さん vol.1

 

「仮歌シンガー」「仮歌さん」。
数年に一度話題になるその職業で、私は毎日の飯を食っている。

さて、仮歌、とはなんだろう。
サーチエンジンで検索してもその意味を見つけることができなかった。

簡単に言ってしまえば、「仮歌シンガー」の仕事は2種類に分けられるように思う。

①作曲家がコンペに提出するデモ音源に入れる歌
②完成した楽曲を実際に歌うアーティストに聴かせるための歌

私は主に②の「仮歌さん」として生計を立てている。

テレビに映る歌手。その姿は華やかだ。
綺麗なスタジオ、綺麗な衣装にお化粧。笑顔で歌う姿。

その一方で、「仮歌シンガー」をインターネットで検索すると、

「人前に出ない仮歌シンガーは一番の選択肢にはならないでしょう」
「仮歌とは本来の夢を実現するための一歩でしかない」
「特別なスキルは必要ありません!」

などと、それを生業にしている人間からするとショッキングな文言を見つけたりもする。

現実の世界で、現実に、職業「仮歌さん」として生きている私はどうだろうか。

所狭しと貼られた吸音材に囲まれた、不格好で小さな防音室のなか、ヘッドホンで頭をボサボサにし、爆速でパソコンを操作しながら、顔を歪めて熱唱する女。

全くもって華やかではない。

ましてや、一般的に「歌を仕事にしたい!」という人が夢見るような、広いステージや喝采、沢山の人からの称賛などない。有名になることもない。

地味で、表には出ることのない仕事だ。

ただ、そんな裏方に隠れた自分の歌があることで、楽曲のコンペに勝った素晴らしい楽曲が世に出る。アーティストが曲をイメージできて、最高の歌を世に出すことができる。

まるで町工場の職人のようだな、と思う。

スポットライトは浴びないが、縁の下の力持ちとしてその技術を磨き、振り幅は広く、どんな細かなオーダーにも応える。目立たいけれども、きっと、いなくてはならない存在。

文章にすると気恥ずかしいが、そんな職人的「仮歌さん」でいたいと常々思っている。

何より、引っ込み思案(そう感じないかもしれないが、実際にそうである)で、歌と音楽が命に代えられるほど好きな私にとっては、とても向いているお仕事だ。最高!

さて、この度、日刊ビビビ様にてありがたく記事掲載のお話をいただいた。

何を書けばいいのだろうと考えていたら、2021年の終わりを迎えてしまった。なにより、恥ずかしながら仮歌という自分の職業に自信が持てなかった。

そんなとき、2021年紅白歌合戦で氷川きよしさんが歌った「歌はわが命」を聴き、目が覚めた。

美空ひばり「歌は我が命」の歌詞 / 歌詞検索サービス「歌ネット」
https://www.uta-net.com/song/63502/

衣食住音。
私のモットーであるが、衣食住と同様に、当たり前のように音楽がそこにある生活が私はとても好きだ。

うたいつづけなければなあ、と思う。

これから、「仮歌さん」としてのお仕事のことや、この職業に就いた経緯、それから影響を受けたことなどをご紹介したいと同時に、そんな”衣食住音=当たり前に音楽がある生活”をみなさんに少しだけ覗いていただけたら嬉しい。

(C)maimie

maimie
―「仮歌さん」として8年目を迎えた元旦

 

maimie(まいみい)

(C)maimie

仮歌シンガー、作詞家。
アニメソングを中心に、ガイドボーカル仮歌は約600曲、コーラスは約250曲に参加。

代表作
・「からだ☆ダンダン」歌唱
・アニメ「結城友奈は勇者である -大満開の章-」劇伴コーラス
・電音部 「ペトリコールを渡って」作詞
・グランブルーファンタジー「キミとボクのミライ」作詞
など

twitter:@maimiee
公式サイト:https://maimie.jp/