「オーディションは落ちるためにある」声優・中原茂が語るオーディションの心構え
「オーディションは落ちる為にあるような物だ」
これは若い頃良く言われていた事だ。
その言葉を証明するかのように、僕は、見事な程落ちまくっていた。
余りにも落ちるので、一種のオーディション恐怖症になっていたのかもしれない。反面、受ければ必ず受かるような人間もいた。
そして、30代に入った頃。
自分は、デビューした頃から今迄一体何本位受けてきたのか手帖を見返し数えてみる事にした。
そして自分で20代の本数を見てビックリした。詳しい数字は憶えていないのだが「5百数十本」! 600本に近かったのだ。
打率にするととんでもない数字だろう。合格した作品は10本にも満たないのだから。
だから勿論その作品のタイトルは憶えている。
レギュラーでは「魔境伝説アクロバンチ」ジュン役、「超獣機神ダンクーガ」雅人役、「ボスコアドベンチャー」フローク役、「OH! ファミリー」ケイ役。
PS:「キャプテン翼」は翼&若林&日向役を受けたのだが、決まったのが井沢役だった。
そして、劇場版では「アリオン」アリオン役。OVAでは「銀の男」勇二役。
ちなみに30代で受かったのは「ガンダムW」トロワ役のみだ。
つまり今迄でも10作に満たないのだ。
これは、アニメだけではなく、全ての声の仕事に於いてだ。
有難い事に、後は全て、指名で頂いている。
「オーディションに落ちたからって余りクヨクヨするな」という言葉を僕だったら説得力を持って言えるだろう。
だって、こんなに落ちているのは僕位ではないのだろうか。
何でオーディションだと自分の力を発揮出来ないのか? を毎日考えていたように思う。「本番だったらきっと向こう側に行けるのに」等と。
そんな、こんな僕なのに、声を掛けて頂いて作品に使って頂いたディレクターやプロデューサーや監督がいたから、こんな打率でも声優として存在する事が出来たのだ。
様々な出会いが、こんな僕を支えてくれた。
僕の代表作の殆どが、そんな出会いと縁の中で生まれたと言えるだろう。
未だに何で決まったのかをちゃんと知らない作品もある。
僕のキャリアからすると、多分、仕事本数は少ない方だと思う。特にレギュラーに関しては。
でも、少ないが故に、何時までも自分の中に色濃く残り続けてくれているのかもしれない。
20代の頃、作品が遣りたくて遣りたくて、一文字でも多くセリフを喋りたかった。
アニメ誌で自分が落ちた新番組のキャストを見て、何度悔しい思いをした事か。だから尚更、自分が受かった番組は、役は、愛しかったのだろう。
そして何時も思っていたのは。
何でこのような事を思っていたのかは定かではないのだが。「サムライで在りたい。何時も瞳を輝かせ続けていたい」という事。
次こそは! 次こそは!
強くそう思い続けて来た20代。
「どこで誰が見ているか分からないんだからな」
大御所のディレクターからのこの言葉を何時も胸に、絶えず挑み続けていたあの頃。
そんな観点から、仕事をお願いされた事も間々ある。
どんな時も、その時の120%で。
どんな時も、腐らず、ピュアな気持ちで。
受からないのは自分に魅力がないからだ。
人のせいに絶対してはいけない。
全て自分。
ならば、自分をしっかり磨いて、己自身の魅力をしっかりと身に付けなければ。オーディションに落ちたって死ぬもんじゃない。
諦めるな! 諦めるな! 諦めるな!

(C)ローカルドリームプロダクション
今回も最後までお読み頂き、ありがとうございました。
選ばれるって凄い事ですよね!
中原茂(なかはら しげる)

(C)ローカルドリームプロダクション
1961年生まれ。鎌倉市出身。みずがめ座の0型。
「ドラゴンボール超」人造人間17号、「新機動戦士ガンダムW」トロワ・バートン、「戦国BASARA」シリーズの毛利元就、「幽遊白書」妖狐蔵馬など数々のキャラクターを担当。
吹き替えでも「ビバリーヒルズ高校白書・青春白書」ブランドン・ウォルシュや「X-MAN Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」のサイクロプス役などを担当。
ラジオ番組「yuhaku presents 中原茂の『ただ風の中で』」は毎週金曜日19時からFM JAGAで放送中(Apple Podcast、Spotifyでも配信)
Twitter:@Kotonoha_NS
事務所公式サイト:https://localdream.jp/nakahara
中原茂公式サイト:http://www.nakaharashigeru.com/index.html