エヴァンゲリオンは特撮アニメ 庵野秀明展に見た破壊の果てにある創造
はじめまして、こんにちは。小説家の羽場楽人(はば らくと)と申します。現在は電撃文庫から『わたし以外とのラブコメは許さないんだからね』(四巻まで好評発売中、五巻は来年一月に発売予定)というラノベを書いております。愛称はわたラブ。恋人になってから始まる両想いラブコメ、面白いので是非読んでみてください。

(C)羽場楽人
このコラムでは毎回、私が影響を受けた作品を取り上げております。ということで現在、国立新美術館で開催中の庵野秀明展に行ってきました。第二回は、庵野秀明展から見た破壊の快楽とその先について語りたいと思います。
『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の完結も記憶に新しい、アニメーション監督・庵野秀明。アニメのみならず『シン・ゴジラ』など実写映画でも活躍する日本を代表するクリエイターです。

(C)羽場楽人
私自身も庵野作品に多大な影響を受けた人間です。技術や知識だけではなく、もはや自分を形成した血肉であり、自分の創作の土台と言っても過言ではありません。
過去には、崩壊した世界を舞台に巨大人型決戦兵器とモンスターが戦う『スカルアトラス 楽園を継ぐ者』(電撃文庫。1、2巻が発売中)という作品を世に出したくらい好きです。

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さて、エヴァンゲリオンというアニメは難解な作品というイメージが強いかもしれませんが、実際にはロボット物の皮を被った特撮作品です。物語の構成は、現れた使徒をエヴァンゲリオンが退治するという、ウルトラマンシリーズそのものです。
エヴァンゲリオンがウルトラマン、街を破壊する怪獣であるところ使徒、破壊されゆくメカや街並みの数々。もはや挙げればきりがないほど特撮への無数のオマージュに満ちています。
私が特に特撮的な部分で印象深いのはTV版の第拾八話『命の選択を』、エヴァ初号機とエヴァ参号機が夕陽の中で戦う場面です。
ウルトラセブン第8話『狙われた街』に登場するメトロン星人の戦いを彷彿とさせる一方、エヴァの正体がロボットではないことを決定的づけるショッキングな映像でした。ダミーシステムで暴走する初号機が参号機を徹底的に破壊しつくし、周囲を血の海に変えたことには恐怖を覚えました。
果たして主人公機が、あのような残虐行為をしていいのか、という当時子どもだった私の固定観念を揺さぶられました。新劇場版:破での一連の変更にもまた大きな衝撃を受けましたね。
そんな特撮の魅力のひとつには、破壊の快楽があります。
実物を破壊できないから似せたものを手間暇かけて作り、一瞬にして破壊する。破壊する快楽のために、物体を創作する。それは人間が根源的に持つ破壊衝動や、滅びの美学に訴えかけるからでしょう。
若き日の庵野秀明が爆発などのエフェクト作画においてアニメーターの頭角を現したことを象徴するように、庵野監督作品には破壊の快楽に満ちています。まるで安定や秩序を拒むように、既に築き上げられたものが徹底的に破壊されていきます。
エヴァでさえ容赦なく四肢が損壊し、新劇場版シリーズではついに第三新東京市どころか世界そのものが完全に崩壊したことが具体的に描写されました。
ただし、その破壊のインフレーションの果てにさえ人間の生活の営みは存在していました。
『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』で過去作と決定的に異なるのは、この破壊の先に待つ回復を明確に描いたことです。
あの第三村の描写は、従来の抽象的な表現での精神的な回復にとどまらず、苦しい状況下において衣食住を確保して堅実な生活をいかに築き上げていくかを丁寧に見せました。
いみじくも新劇場版シリーズをリビルドと称していたように、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の結末自体も、エヴァンゲリオンというシリーズを破壊するために創造して幕を閉じました。
今回、庵野秀明展を見て、改めてそのエンディングが腑に落ちました。
庵野作品と特撮の関係をここまで紐解いてきましたが、単純に各作品のファンなら足を運んで損はないです。なにより『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の貴重な資料も数々展示されており、渚カヲルの渚司令設定が新劇場版:Qの頃からあったことに驚かされました。
やっぱり見たいぞ、破とQの間の14年間!

(C)羽場楽人
また『シン・ウルトラマン』『シン・仮面ライダー』が公開した暁には『シン・ゴジラ』『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』を含めた、シン・庵野秀明展として帰ってきてもらえればファンとして嬉しい限りです。
これからも庵野監督の新作を楽しみに待ちたいと思います。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。次回のコラムもよろしくお願いします。
羽場楽人(はばらくと)

(C)羽場楽人
4月30日生まれ。東京都文京区出身。O型。
2016年12月に電撃文庫より『わたしの魔術コンサルタント』でライトノベル作家デビュー。同作はラノベニュース・オンラインの月間アワード三冠を獲得するなど高く評価された。
2020年から刊行した『わたし以外とのラブコメは許さないんだからね』が大ヒットシリーズになる。現在4巻まで発売中。趣味は映画鑑賞とスニーカー収集。
Twitter:@habarakuto
わたラブPV:https://www.youtube.com/watch?v=8JyirDQSg1Q&list=LL&index=11&t=35s