『食戟のソーマ』には“もう1曲のエンディング”があった!? 手塚治虫の『ブッダ』から着想した「月兎時」とは

 

nano.RIPEのきみコです。

前回のコラムで書いたように、テレビアニメ第3期『食戟のソーマ 餐ノ皿』エンディング主題歌には「虚虚実実」の他にもう1曲候補があったのです。

今回はそんな「もう1曲」について綴ってゆきたいと思います。

(C)ハイウェイスター

もう1曲の正体は、「虚虚実実」と共にアルバム「ピッパラの樹の下で」に収録されている「月兎時」という曲。

少し聴いていただいただけでもわかる通り、「スノードロップ」とも通ずるところのある鋭いギター、攻撃的なメロディ、もう紛れもなく『食戟のソーマ』のために書き下ろした曲なのです。

歌詞の世界は「虚虚実実」とは別の切り口で、餐ノ皿部分のシナリオで薙切えりな嬢の心情の次に印象に残った「月響祭」に焦点を当てて描いたもの。

歌い始めのフレーズ
「空を見てごらん 今宵月は満ちた てっぺんに届いたら さあ 始まりの合図だ」なんてもう、あのシーンをそのまま言葉にしただけのもの。

天井が開き、そこから顔を出す満月の美しさ、そしてそれが闘いの幕開けだというシーンにあたしは心を掴まれたのでした。

が、残念ながらこの曲は主題歌になることはなく、その後アルバムに収録することが決定しました。アルバム制作時に改めて歌詞を見直し、続きを書くことになるのですが(デモ制作時はTVサイズのワンコーラスのみのため)、ここで不思議な出会いがありました。

アルバムタイトルである「ピッパラの樹の下で」は、当時、手塚治虫先生の『ブッダ』を読んで衝撃を受けたあたしが命名したものでした。

ご存知の方も多いと思いますが、『ブッダ』の冒頭にウサギが出てくるシーンがあります。「月兎時」というタイトルのせいか、この曲を改めて聴き直した時に、あたしの頭の中にそのシーンが浮かんだのです。

そこからソーマの世界とブッダの世界が不思議と繋がり、今を生きる創真たちの葛藤を、ひいてはぼくらの毎日を、月響祭のあの満月の中からブッダのウサギが見ている気がしたのです。

なんて、少し大きな話になってしまいましたが、そんな偶然が重なって完成したのが「月兎時」という曲でした。

食戟のソーマに出会っていなければ、さらにはブッダに出会っていなければ、決して描けなかった物語。作品の力によって生まれる物語。ありがたいことに、nano.RIPEにはそんな曲がたくさんあるのです。

次回は、テレビアニメ『食戟のソーマ 神ノ皿』エンディング主題歌「エンブレム」についてお話してゆきたいと思います。

 

きみコ

(C)ハイウェイスター

3月12日生まれ、千葉県出身。
ロックバンド nano.RIPEのVo.とGt.として
アニメ「花咲くいろは」「のんのんびより 」「食戟のソーマ」など数々の作品の主題歌やキャラクターイメージソングなどを手掛ける。
Twitter:@nanoripekimiko
instagram:@nano.ripe
バンドHP:http://nanoripe.com/