異世界に転生させてあげるから今すぐ死になさいっ!【第9話】

@miminari_zzz

えっ、そういうものなのか?

だから俺がここで今死んだとすれば、異世界では同じ、28歳の身体として……イケメンチート勇者の身体が28年間の月日使い古された状態で『転生』するんだな?

「なるほど、分かった。じゃあもうひとつ、異世界の1年イコール現世の1年ってことでいいんだな?」
「だからそう言っていますのに……ちなみに太陽暦ってのも一緒ですわ。これを教えてくださったのが件の僧侶で……本当、いい人だというのにどうして盗賊なんて」

いろいろあるんだな、人間ってのは異世界だろうが、現世だろうが。

「嘉邦市……スズコのいない1年間でどれくらい変わったんだろうな」

ここまで言って、先ほどのスズコの顔が脳内を過ぎった。

しまったな。深入りしてしまったか……?

話を異世界に戻そうとした、そのとき。

「……嘉邦商店街。家族でよく買い物に出かけましたわ」

驚くことに、独白。スズコはこの世界の白日の下に、この世界でのことを曝け出し始める。

「わたくしの家は貧乏で、毎日借金取りが家にやって来ましたわ。ドンドン、ドンドンって扉を叩くんですの。わたくしは母に抱かれながら『大丈夫、大丈夫よ』と言われていた……気がしますわ。ええもう、あの頃のことはほとんど忘れてしまってますの」

正直、困った。

話が重すぎるのは言うまでもないことだが、そもそも俺は人と深くコミュニケーションをとったことがない。

例えば高校生の時のクラスメート、武田くん。彼は事あるごとに俺に話しかけてきてくれたが、結局彼に心を開くこともなかったどころか、むしろ嫌っていた。

武田くんはハッキリ言って皆から好かれている人気者だった。学級委員長の桃瀬さんも、不良の一之瀬くんも、俺が密かに想っていた……七瀬さんも。みんな武田くんのことが大好きだった。その頃の俺といえばいつも決まって窓際の席で、休み時間の度机に突っ伏すとどうしようもなくくだらない妄想に耽っていたっけな。そうそう、このときは痩せてた。これ重要。

ある日武田くんと七瀬さんが付き合っているという噂を聞いた。それは自然な流れだったろう。摂理であったことだろう。だけど当時の俺は邪推したんだ。「なんで七瀬さんが武田なんかと」ってな具合に初まり、あるときは武田くんに根も葉もない悪者のイメージを植え付け七瀬さんはかわいそうな被害者だとしてみたり、またあるときは七瀬さんはただのクソビッチだから武田くんみたいな軽そうな奴と付き合えるんだ、と。

それからの高校生活はもう、最悪だった。こうなればクラス全員クソ野郎だ。だから俺のような志の高い人間とは交われないんだ。そうやって友達なんて作らず、誰にも彼女なんて作らず、家に帰れば両親に当たり散らした。

……俺の人生そんなもんだったから、自業自得だ。だけどどうだ、目の前の彼女は。

「……初めはわたくしを抱きしめてくださっていた母も、時が経つにつれて精神が摩耗し、痩せ衰え、次第に恐怖に打ち勝つ元気を失っていきましたの。だったら次はわたくしの番。中学生になった年から家事の一切を引き受けましたわ。朝起きて洗濯、父の弁当作り、朝食と昼食を準備してから登校……ご飯と梅干し1粒だけの質素なものでしたけれど。母の体調が良くなりだしてからは新聞配達のアルバイトをして借金の返済を手伝っていましたの」

凄惨な状況下、それなのに人のためであろうとしている。こんなに美しいひとを見たことがない。

……勇者を全うできたのも頷ける。自己犠牲精神の塊じゃないか。

●文:モロハナオヨビ
自衛官などを経て執筆活動を始め、今は透明な猫を飼っています。
好きな食べ物は山芋。
Twitter→@258us

 

●絵:ミミナリミミ
【Too lovely to die(死ぬには可愛すぎる)】をテーマに病める時も健やかなる時も可愛い女の子を描いています。フリルとタバコが好きです。
Twitter→@miminari_zzz

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