異世界に転生させてあげるから今すぐ死になさいっ!【第7話】

@miminari_zzz
「ではステーキに」
「待てや! 肉焼いただけの料理が存在しない異世界ってなんなんだよ!!」
「だって……食べたいんですもの」
「ほらやっぱりあるんじゃん……っていうか明らかに予算オーバーしてるじゃねえか!」
「やだ! スズコはこれ食べたいの!!」
ああ店員さん。朝っぱらから豚とワガママお姫様の押し問答を見せつけられさぞご迷惑かと存じます。心中お察しします。ですがもう少し待ってください。重要な問題なのです。なぜなら。
正真正銘、この世界で摂る最後の食事なのです。
注文の品が届くまで10分とかからなかった。
ちなみにステーキは却下だ却下。なめんな。
俺とスズコは思い思いの飲み物を持ち寄り、これにて最後の晩餐の準備は終わり。
「それでは、勇者さまの新しい門出を祝って……」
「かんぱーい!!」
いよいよ上機嫌だ。シラフとか関係ない、純粋にテンションが上がっているのだ。この飯を食い終わって帰宅すれば、あの黒薔薇を飲み下す。それだけで長年悩まされ続けてきた借金とも、醜悪な容姿ともおさらば。晴れてチート勇者として生まれ変わる。こんなに嬉しいことはないだろう。
「スズコ、ありがとう!! お前は俺の勇者さまだよ!!」
ギョーザのタレに酢を加えながら彼女は満開の桜のような笑顔を振りまいて。
「いいえ、わたくしのために現世を捨ててくださる決心をして頂きまして、こちらこそありがとうございますわ」
ヒョイと箸を器用に使いギョーザをつかむとタレへ、それから口へ運ぶ仕草、どれ一つとっても汚らしさを感じさせない流麗なもので思わず目を見張る。
さて、と、俺もマグロ丼をかき込む。ワサビが効いて美味い。こんなに美味しいもの、いつぶりに食べただろうか。思えば引っ越してきてからというもの、ろくなものを食ってないな。来る日も来る日もカップラーメン……ってそりゃ太っても文句は言えねえわな。
「おいしいですわ~! あちらの世界じゃギョーザなんて食べられないですものね!」
「逆に何を食べてるんだよ。食生活も知りたいところだけど、異世界ってどんなところなんだ?」
彼女は語る。主に牛肉と豚肉、野菜を食べているということ。1日は24時間だということ。魔王が滅ぼされた今、魔物は人々と共に生活をしているということ。
「後半はともあれ、最初の方を聞く限りギョーザなんて作れそうなもんだけどな」
「ち、ちがうんですの……その、わたくしはギョーザの作り方を知らなくて」
要は作り方を知っている者がいないということだ。そういうことなら俺が異世界に転生したときにでも教えてやればいい。
昔はよく家族でギョーザを作ったな。最初はうまく包めなくて、破れたものを親父が食ってくれてたっけ。母親……母さんは「太っちゃ嫌だから」とかなんとか言って俺の皿にどんどんギョーザを山積みにしていくんだ。あ、そうそう、ギョーザはポン酢で食うのが1番うまいんだ。
「安心しろって、俺が転生した暁にはたくさんギョーザ作ってやるから」
物思いに耽っていたことを悟られぬよう、極めて平静であるかのように装った。
……平静じゃないことぐらい自覚してるっつーの。
「本当ですの!? 実はわたくし、ギョーザは小さい頃から大好物で。それはもう、毎週金曜日には母とギョーザを焼いて父の帰宅を待ってるくらいに……」
マグロ丼を頬張っていたから気付かなかった。ふと目をやると彼女は魂の抜けたように口をパクパク動かして、心ここに在らずを体現しているかの様だった。


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