異世界に転生させてあげるから今すぐ死になさいっ!【第4話】

@miminari_zzz

ああ、ああ、そうだ。

「ごめん、姫様」
「どうかなさいました?」
「水飲んでいい?」
「え、ええ……いいですわよ」

蛇口から水を直飲みしたあと、水垢まみれのシンクを見下ろす。そういえば腹が減ったなあ。

「姫様、俺は飯が食いたいです」

彼女は信じられないといった様子で「今から死にますのに!?」と、ツッコんできた。

「まあそうなんですけど、異世界でこっちと同じような飯が食えるとは限らないんで……」

もっともらしい言い訳をして、姫様と町へ繰り出すことにした。目指すは、最後の晩餐にふさわしいご馳走。

******

今10月だろ? 知ってる。さっき督促状で見たから。問題は時刻。

長らく昼夜逆転生活を送っていたのだ。ただならぬ眠気も頷ける。

「飛び出して来てから言うのもなんですけれど、晩餐というには早すぎますよね」
「そ、そうですわね。わたくしちょっと肌寒くなってきましたわ……」

午前8時の街は当然ながら閑散としている。駅周辺というわけでもないから出勤する社畜どもの影すら見えない。見えてたまるか。

「でも、懐かしいですわね。わたくしの住んでいたところによく似ています」
「へえ。そうなんですか」

やっべー、会話続かねえ。なんか姫様、ニコニコして俺の言葉待ってるけど相槌以外特に言うことねえよ!

「と、いうか勇者さま? 失礼ですがお金って……?」

そうだった。危ない危ない、コンビニで下ろしておかなければならないのだった。

近くにコンビニは、っと。

寂れた病院や、需要があるか分からぬカプセルホテルと質素なビル。10年前の俺にとっては十分すぎるお誂え向きの都会だった。駅から遠いことも相まって、ここらも潮時だろうなと考えているうちに、あった。

閑静な住宅街の入り口にぽつねんと立ち尽くす、コンビニ。

「見てください勇者さま! コンビニですわよ! コンビニ!!」
「分かってますって……あっ、ちょっとどこ行くんですか!」

彼女は、散々コンビニを見つけてはしゃいでおきながら、それとは少し違った方向へと駆けて行った。その靴、ヒールが折れやしないか。

腹を揺らしながら追いかける……これも筋トレ。果たして彼女の向かった先はコンビニの駐車場。残念ながら俺がコンビニに入ることは叶わないらしい。何故なら。

「ぁあ?! なんだテメエ」
「花本くん、逆ナンじゃないっスか~?」
「うひょ~っ!! さすが花本先輩だぜ! 南中学の頭とってるだけありますねえ!!」

よくある光景だ。何度こういう風景に出くわして飯を食えない日を過ごしたことか。

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第3話

●文:モロハナオヨビ
自衛官などを経て執筆活動を始め、今は透明な猫を飼っています。
好きな食べ物は山芋。
Twitter→@258us

 

●絵:ミミナリミミ
【Too lovely to die(死ぬには可愛すぎる)】をテーマに病める時も健やかなる時も可愛い女の子を描いています。フリルとタバコが好きです。
Twitter→@miminari_zzz

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