異世界に転生させてあげるから今すぐ死になさいっ!【第3話】

@miminari_zzz

「ああっ、そんな委縮しないでくださいまし! 何故ならわたくしはお願いをするためにここにいるのです!」
「まさか……そ、その内戦を止めろって言うんじゃないでしょうね?」

委縮しているわけではない。対面して人と話すなんていつぶりだろうか。どうしても声がかすれてしまう。動悸が激しくなる。
「そのまさか、ですわ。貴方がこの世界で死んでくださることを条件に、ですけれど。いうなれば、転生、ですわね。異世界転生。ご存知ですわよね?」

ご存知ですわよ。むしろ異世界からいらっしゃったあなたがご存知すぎるのではないか。

それにしても、死ぬ、か。

悪くない提案だ、丁度死にたかったところだし。

だが問題はそのあとだ。

「もし、生まれ変わったとして、俺が、その内戦ってやつ、止められる自信ないですよ」

そうなのだ。今しがた浴室の鏡で確認したように、俺の体は貧弱を極めている。今なら小学生にすら負けそうな気がする。こんな体で一体何が出来るというんだ? 王国内の王女様……王女以下王政を執り仕切っているその他多数の人間が止められず、こちらの世界へ助けを呼びに来るほどの内戦を、俺が、果たして止められるのか?

「大丈夫ですわ。異世界転生した者は決まってチート級のステータスですのよ。ソースはわたくし」
「なにっ!? あなた、もともとこっちの世界の住人だったんですか?!」
「ええ、もちろんですわよ」

道理でこちらの世界の事情を知りすぎているわけだ。スズコとかいう、やたら日本人的な響きの名前も頷ける。

「貴方のような、何のとりえもないようなお方でも勇者と成り得るのです。そして戦いの終わった暁には……わたくしと……」

彼女は、紅潮しきった頬に手を当て、目を逸らした。

「勇者さまさえよろしければ、結婚して頂きたいのですわ」

……。

はい。

決定決定、けってーーーい。

俺、転生します。転生して勇者やります!

「分かりました。死にます」
「その答えを待っていましたの!!」

姫様は嬉しくてたまらないといったふうに部屋中を飛び跳ねる。その姿は俺の畏怖する女子高生そのものではあったけれど、絶世の美女なのだから……質が違う。

いっそ俺も飛び跳ねようか。いや、やめておこう。フィギュアを踏んだら大変だ。

「いっっったいですわ!!」

言わんこっちゃない。言ってないけどな。

フィギュアを踏んづけたのだろう。スズコはゴミ山に座り込み、シミやくすみ一つない細足を投げ出した。

「あ、そうだ」

ちなみにさっき驚嘆したおかげで、声はすんなり出るようになっている。

「俺、痛いのとか苦しいの嫌なんですけど。何か良い死に方ありませんか?」
「フフ……そう仰ると思いましたわ」

姫様は髪飾りにしている黒いバラの花弁を1枚、千切って俺に手渡してきた。

「これは?」
「死の黒薔薇……これを飲み下せば、静かなる死が勇者様を包み込みますわ」
「……? 分かった」

中二病の延長線でしかない言葉の端々には疑問を抱くばかりだが。

なるほど、このバラの花びら1枚、飲み込めば俺は死に。

異世界で勇者たらしく転生するわけだ。

「さあ、ひと思いに飲み込みくださいませ。勇者さま!」

……。

……終わるのか、ここで。

……いいのかそれで、って良いに決まってるだろ! このまま生きてても何もいいことないって分かりきってるじゃねえか! 絶対転生したほうがいいって!

俺は……その花弁を、カサカサの唇で咥える。

【異世界に転生させてあげるから今すぐ死になさいっ!】バックナンバー
第1話
第2話

●文:モロハナオヨビ
自衛官などを経て執筆活動を始め、今は透明な猫を飼っています。
好きな食べ物は山芋。
Twitter→@258us

 

●絵:ミミナリミミ
【Too lovely to die(死ぬには可愛すぎる)】をテーマに病める時も健やかなる時も可愛い女の子を描いています。フリルとタバコが好きです。
Twitter→@miminari_zzz

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